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最高裁判所第三小法廷 昭和45年(あ)654号 決定

本籍

宮城県石巻市明神町一丁目一番地の三

住居

右同町一丁目二番六一号

会社役員

相原健三

大正九年一一月一五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和四五年三月九日仙台高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人日野市朗の上告趣意は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 〃 下村三郎 〃 松本正雄 〃 関根小郷)

昭和四五年(あ)第六五四号

被告人 相原健三

弁護人日野市朗の上告趣意(昭和四五年五月二八日付)

原判決は、審理不尽の結果事実を誤認し、原判決を破棄しなければ著しく正義に反する。

一、弁護人は控訴趣意書において、有限会社みのり化成の昭和四〇年七月一日から同年四一年六月三〇日までの事業年度実際所得金額が二、四七三万九、四七一円であり、昭和四一年七月一日から昭和四二年六月三〇日までの事業年度実際所得が一、四三八万九、九七四円であることを主張した(第一審判決の事実認定も、起訴状の記載も同じである。)

そして、それを前提として、みのり化成の公表所得金額については、被告人に故意を欠き、又公表所得金額が特定されないため、逋脱税額も特定されず、結局本件各逋脱罪は成立しないことを主張した。

ところが、原判決は「本件は起訴自体において公表所得金額(昭昭四一年度益金四、四二一、五九八円、昭和四二年度損金七、四五五、八八一円、記録七五八丁七六九丁)を控除した各年度所得金額および法人税額を各逋脱罪の対象としていることが明らかであり、原判決はその掲げる各証拠により適法に公訴事実と同一の各年度所得金額および法人税額を認定していることが認められるのであるから、所論はすべてその前提を欠き採用できず、原判決に所論のような事実の誤認があることは認められない。」と述べている。

しかし、記録を検討してみると、第一審判決の認定したとおり、みのり化成の実際所得額は、当該各年度における第一審判決記載の額の金員なのである。

原判決がいうように、起訴自体において公表所得金額を、実際所得金額を控除しているのではない。

この実際所得金額の差異は、単なる数額の差異にとどまるものではない。控訴審において弁護人が問題としたのは、まさにこの数額の差異を前提とした。その差額についての故意の存否および、本件における罪となるべき事実としての逋脱額の特定なのである。

原判決は、前提となるべき事実について誤認し、その結果、本件における争点についての審理を全く放棄して、これを行わないでしまつたのである。

本件におけるような前提となる事実についての誤認は、それ以降の問題点を全く無視してしまう結果を招来する。それ故にこのような前提事実の誤りがあり、そのためにその後の問題点に対する判断を欠く結果となる事実の誤認のある判決は、破棄されなければ、問題点についての審理をうけられない結果となるものなのであるから、提起した問題点についての審理の機会を保障する見地からも、破棄されなければならないのである。

よつて、原判決を破棄し、事件を仙台高等裁判所に差戻す裁判をされたい。 以上

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